とち
[トチ/栃:トチノキ科:広葉樹/散孔材]
この木は私個人的に、かなり好きな木のひとつです。(実際の巨木に触れたことがあるからかもしれません……。)
色の白い優しい雰囲気を持っていて、材も軟らかく、刃の当たりもやさしく、鉋のかかりが良い、比較的加工しやすい材です。
昔から「栃の絹肌」と言うらしいです。(絹肌自体を最近手にする機会が少ないので、この例えも、例えたらなくなりつつあるかもしれませんね。)
しいて言えば、女性的な雰囲気を感じます。(こういう例えかたも、下手をすると、セクハラとか、性差別とか言われかねない世の中です。)
じぶんちショールームで普段使っている一枚板のテーブルもこのトチノキなので、愛着もあり余計にそう思うのかも知れません。
毎日、このテーブルで食事をするのですが、数年使い続けたところで飽きたりする気配がありません。
疲れて帰っても、この前に座りお茶を飲むと本当にほっとしますし、家族が揃うとよりいきいきするような気もします。
これは木のテーブルに限らず、どんなテーブルでも日常にあれば同じなのかもしれませんが、私にはこの木の持つ魅力がそれをいっそう強く感じさせてくれるような気がしてなりません。
このトチノキの中でも「縮み杢」といって木目に直交してキラキラと波を打って立体的に見えるような木目をしたものがあり、それは、初めて目にされたら、「なんなんだ、どうなっているんだこれ!?」と思わされる本当に不思議な木目です。
一度、その「縮み杢」の見事な板を使って、ライティングビューローをつくったことがありますが、私自身、そんな見事な杢を見るのは初めてで、まさに「なんなんだ、どうなっているんだこれ!?」という感じでした。
ほんのちいさな端材も捨てるに忍びなく、それを取っておいたものでペンダントヘッドや、携帯ストラップなどのアクセサリーを制作しましたが、そんなちいさなものでも、この杢がハッキリと表われて、なんとも不思議な味を醸し出していました。
![]() トチの板目 |
![]() トチの柾目 |
[トチ縮み杢]
巨木が自重により圧縮されたものが、積年でしわの様になり、このような杢になるそうです。(他にも諸説さまざまあります。)
木の工房KAKUでは、無垢の素材として木を使っているので、あまり杢や銘木がどうこうということに対し強く固執するつもりもありませんが、実際、目の当たりにするとやはり美しいですし、その成り立ちに人の手の届かない自然の奥深さを感じます。
この木は、ほんとうにたまたま入手する機会があったのですが、実際、加工する段には、予想以上に気を使わされました。
というのは、材としての性質上、逆目、木口、倣い目が順に並んでいる訳ですから、へたに切れていない刃物で削ろうものなら簡単に逆目を掘ってしまい、折角の材をダメにしてしまいます。
それでも手ガンナで仕上げたときの美しさは、ありきたりな表現ですが、筆舌尽くしがたい、実際その眼で見ていただく意外に伝えようがない、摩訶不思議な模様が浮き出ます。
やはりこういう希少な材は、手仕事での加工を中心とした工芸品のように、より手間をかけられる仕事に向いている材だと感じます。
その希少性に比例し、密につくり込まれた中にこそ活きる、そんな風に思います。

トチ縮み杢の板目